コロラドスプリングス 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ(1): ブロードモアホテル

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    エッセイ(1)
        二日半4500キロ
        この指とまれ
        砂丘のコーヒーカップ
        ブロードモアホテル
        男四十にして
        青春
        お茶
        美人
        個性
        ある事故
        服から出ていた気


 コロラド州コロラドスプリングスの市は州都デンバーの南約100キロの位置にある。宇宙SF映画などでは時々顔を出す北アメリカ国防省防衛基地(NORAD)はじめオリンピック強化センター、合衆国空軍士官学校などでも有名なところである。

 標高4300メートルのパイクスピークは同州内にある53の4200メートル級の山々の中で最高峰ではないが、ロッキー山脈群の東側に広がり遠くはミシシッピー川までに至る現在のアメリカの穀倉地帯の大平原から西に向かってきた西部開拓民にとってはその山脈の麓に最も近い山であった。

 1800年代のゴールドラッシュ時代には、この近辺でも金があちこちで掘り出されていた。そのマインシャフト(当時の金鉱は垂直に真下に掘りおこしてから横に地表面と平行に掘り進み金脈を探す方式を取っていた。その真下に開いた空洞)に足を誤って踏み込んで不具(cripple)になった人が多かったことから町の名前になったクリプル・クリークやビクターでは、多くの夢を持った連中が一角千金を狙って集まってきていた。

 そんな時代が終わり20世紀に入った頃、スペンサー・ペンローズという裕福な独身男が馬に跨って現在のブロードモア地域を走り回っていた。ある時、彼は馬に跨ったままその当時では有名なアンテロープ・ホテルに泊まろうと馬に乗ったままロビーに乗りつけた。ところが、自信とプライドに満ちた彼の思惑に反し、係員らに馬から下ろされて叱咤されたらしい。

 そこで憤慨した彼は、「そんなことをするんなら、俺は自分でホテルを建ててやる。」と置き台詞を残して出て行った。1917年に、その言葉の通りに彼は、ブロードモアホテルを建ててしまった。そして、コロラド州に3つある伝統的な高級ホテルの一つとして有名になっている。

 ところが、このブロードモア(BROADMORE)という名前には「A」の文字が入っている。この頭文字を持っている憎きホテル、ANTELOPE HOTELへの復讐心を強く持っていた彼は、意図的にこの文字を小さくして、自分のホテルの名前の綴りの中で馬鹿にするかのように小さくはじけた位置におき、現在もそのまま残っている。

 これが、コロラドが誇る5星のホテルが誇りにしている伝説になっている。仕返しに対する英雄伝を喜ぶアメリカ人に国民性を感じたような気がした。私の第一印象は、ペンローズという経済的に恵まれていた男の単なる身勝手さと我がままさだけだった。復讐に対するアメリカ人の考え方にまたまた西部開拓者精神の類を感じた思いであった。

 ちなみに1920年頃に禁酒令がしかれた際にも彼は我がままを通していたことが、ほんの数年前に分かった。

 ホテルの本館と西館との間には池がある。その池のリノベーションをすべく水を抜いて底の掃除から始まり、湖面から湖岸にあたる補強や修復が行われた。その時に、池の真ん中に普段は浮かんでいる小島は、湖底から盛り上がった隆起物のように高くそびえ立っていた。

 湖底の掃除も順調に進んでいた時に、作業員が思わぬものを見つけたらしい。それはトンネルだった。湖底を横切るトンネルの話は、ホテルの関係者の誰も知らなかったことだっただけにそのニュースは関係者を驚かせた。そればかりか、そのトンネルの最終点が、そびえ立っていたその小島にあったことを発見した時には皆目を丸くしたそうである。その小島の中に小部屋があった。

 誰も知らなかった、または知らされていなかった小部屋には何十本ものワイン、シャンペインはじめ80年前後前の高級ブランディーなどが詰まっていた。彼は、禁酒令の布かれていたその時でさえ我がまを通し続けていたのである

 一世紀近くも前のこの男のお戯れから、何気ないアメリカ人の物を好む国民性と力を使って何でも通そうとする身勝手さの本質を見たような気がした。そして、私は訪問してくるお客さんに誇り深げにそのことを話し続けるホテルの人たちにもアメリカ人の朗らかさと嘲笑好きな一面を見た思いがした。


 
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小池清通
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