帰国 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ(2): 帰国

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    エッセイ(2)
        アメリカ人を考える
        物事の二面性
        移民
        強制収容所
        ベトナム戦争
        外人さん
        身障者社会
        走るお姉ちゃん
        業務視察の秘密
        ヘルスクラブ
        復讐心と憎しみ
        口に出るもの
        人間の本質
        帰国


 私は数年前に(アメリカ人と)離婚をしている。そのプロセスでアメリカ人の本質の一部を体験したとも言えるが、良い経験をしたと自分に言い聞かせて生きている。自営の会社は、丁度離婚前後から日本のバブル崩壊後の不景気の煽りもあって経営不振に陥って今日に至っているため、離婚の示談で15年間蓄積した財産を失ったことがかなり厳しい経済状況を作り出してきた。
私の大学の時の恩師にH教授という方がおられる。物静かで素朴な方だが、言葉では表せないようなバイタリティーがある。在学中にオートバイの愛好会を作ろうと考えていた時に同調して学校関係者に根回しをして下さった。恩師といっても、彼の授業は一度もとったことがないので、アカデミックな意味でのそれではない。私にとっては、人生の恩師のような人である。

 そんな先生が、私が離婚をし自分の改善や対処のしようのない大きな不景気という動きのなか会社の経営も苦しくなり、財産を失ってあえいでいることを思って手紙を下さった。彼は、書簡での手紙は絶対に書かれない。理由は分からないが、必ず絵葉書でお便りを下さる。いつも何かしらのフィーリングを分け与えてくれるような様々な絵や写真の葉書なのである。

 私の離婚の経緯やその時の経済的などん底状態はよく理解してくださっていた。しかし、多くの米国在住日本人が何らかの問題に直面して、アメリカでの生活をあきらめて帰国するというのに、なぜ私が帰国しようとしないのかが理解できないとおっしゃる。彼の言葉は決して私を罵倒したり見下しているような語調ではなかった。私は豪傑ぶって意地を張って踏ん張っているつもりは毛頭ない。それは、背伸びして生きていくことほど疲れることはないと思っているからである。

 私は尻をまくって逃げるようにして(帰国することがベストでそうする人もいるから、尻をまくっているとは思わないが)日本に戻ってもやっていけるであろう。しかし、一度きりの人生である。まして、アメリカにいようが日本にいようが結局は一緒だと思っているのである。アメリカの風土に馴染み、物心がついて自立しつつある年齢の息子たちもおり、信頼をして下さる同胞がある中、私は日本に帰ろうとは思っていない。

 もう少し具体的に正直なところを話すと、渡米してから7年目くらいまでは日本に戻ろうという気持ちがどこかにあったのは確かである。ところが、それ以後は、私の家はコロラドであるという認識と誇りが強く芽を出して今日に至っている。精神的に根付いたのであろう。

 それでも人生というものは分からない。どこでどう転んでも、どこに転げ落ちても立ち上がって前進する意欲さえあれば、生活するロケーションそのものが人生をかき混ぜるような力を持つことはないと、私は思う。場所が問題なのではなく、そこでチャレンジに立ち向かう個々人の気持ちや気力の問題なのではないだろうか。

 
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