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数年前に取引先の仲のいい方からあるグループの手配依頼を戴いた。通常は日本からプロテン(プロの添乗員)がついて、あとは現地に詳しいローカルコーディネーターやガイドを使う場合が多いが、珍しくロスアンゼルス在住のコーディネーターが同行されるということで、私の会社の手配はバスのみとなっていた。
業務視察という目的でコロラドに来られるグループのようであった。全米の中でも人工の増加に伴い流通関係の発達が著しいこの地域には、何かを学ぼうという熱意を持った会社の方々が多く立ち寄られる。しかし、このグループの滞在中の日程表をみて、私は驚いた。通常は、何時からどこに行くとか、時間的な配分が書いてなくてもどこに行くのか、目的地・訪問先の情報は必ず書いてある。それがないのである。つまり白紙の日程表だったのである。
バスの時間的な使用スケジュールに関しては指定があったが、運転手に目的地を知らせなければ下準備も出来ない。どうしたものかと、担当者に電話を入れてみた。彼は、気まずそうな音調で、「同行するコーディネーターが全て知っていますから、大丈夫です。すべてその場で運転手に指示するそうです。」と言ってきた。私は、運転手の立場に立ってもう一度聞いてみると、彼は気持ち息を荒くして言った。「その人(コーディネーター)が言うには、誰にも言えないところに行くんだそうです。だから、うちにも教えてくれないんですよ。」
私の頭は、歯車のついていない駆動用のモーターが単に空回りしているようなグオーンという音と、音ばかりで動かない機械の外見を同時に見ているような錯覚に陥りながら首をかしげていた。
というのは、サービス業という仕事をしていて一番大切なのはお客さんの要望・依頼内容を満たすことである。そのためには、そのサービスに関与する人達にお客さんが何を望んでいるのか充分な情報を与えることが必要になる。確かに、コーディネーターが運転手に指示をすれば、彼らの目的地には行けるだろうが、前もって知らせておけば間違うことや、無駄な時間を費やす可能性が最小限に押さえられる。現地の運転手の方が、交通渋滞や工事による迂回の必要が生じた場合の機転が効くし、前もって最善のルートを考えておくこともできる。いわゆるプロテクションをもつことができるはずである。
二つ目に、その秘密にする目的地という所は、一般人が入れないような所ではなく、少なくともここに住んでいる人であれば誰でも調べて行ける所である。それに、サービス終了後にバス会社にレポートを出させれば、一目瞭然でその日程をみることができる。
不思議で仕方なかったが、最終日のホテルに入る時間に書類をコーディネーターに渡すという仕事が入り、私はグループの泊まるホテルに出向いた。入り口付近で待っていると視察を追えたグループが到着し、疲れた面持ちのお客さんたちが下車をしてロビーに入ってきた。そんな経緯のグループを持ったコーディネーターであるから、私にはすぐにどの人なのか見分ける自信があった。それは、自信過剰な顔つきをした御仁だと直感で思っていたからである。
「自信過剰」と言ったのは、すぐに調べられるようなことを隠して、直面するお客さんに自分だけの付加価値をつけようとするような対応をしているからだと理解していたからである。視察内容を充実している限りお客さんに手のうちを知らせる必要はないが、地元関係者のやる気を刺激して上げないと、内容の出汁が弱くなってしまう。
案の定、この御仁はすぐに分かった。私が近づき名前を名乗ってから、彼の名前を伺った。「ああ、来たか」というような目つきで私を見上げていた彼は、差し出された書類を掴み取り、「ご苦労さんでした」と言いながら、後味の悪い笑みを残してさっと奥に消えて行った。
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