実話 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ(3): 70マイルでチュッ

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     エッセイ(3)
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 まさかこんなものを見るとは思わなかった。後で考えると恐くなるような出来事に結びつくような危ない光景でもあった。

 ある週末に仕事の関係でデンバー国際空港に向かってとばしていた時である。ハイウエイはウイークエンドということもあって普段よりはすいていた。制限速度55マイル(約88キロ)が首都圏内の高速道路の最高時速になっているが、環状線のインターステート225号線は一部4車線になっており皆知らず知らずにアクセルを踏み込んでいた。

 私は、大体制限速度+10マイルくらいで走ることが多い。そんな車の流れの中を少し早めの70マイルほどで走る抜けるシボレーのフルサイズトラックがあった。気になるような速度での追い抜きではなかったが、私の横の車線を抜けるようにして前方に抜き出たこのトラックに乗っている2人の後ろ姿が気になった。荷台に何ものせていなかったから、リアウインドウから中がまるみえだったのである。

 人のプライバシーには興味もないが、気になった理由が他にあった。それは、70マイル(110キロくらい)の速度で走る車の中で2人がチュッとキスをしていたのである。運転手の目は当然前を向いていたとは思うが、その予期せぬ場所での予期せぬ行為が私の焦点を引きずり出すようにしてそちらに向けさせた。
愛情表現といえば一言で済むかもしれないが、命をかけて、しかも他の車に乗る人たちの命まで危険にさらしてまでする行為なのであろうか。車を横に停めてすればいいことであり、場所と状況が私の常識を超えていた。まさにアメリカならではの情景だったのかもしれないが、愛情を確かめ合わないといてもたってもいられないアメリカ人の性をこんな形でみたような思いがした。

 常に相手が自分を愛しているということを体をもってあらわしていないと、相手がいつ何処に消えるか分からない不安があるらしい。日本では、「愛してるよ。」などと人前で言われたら、された本人でさえ「何を今更。人前で恥ずかしい。」などと驚いてしまうかもしれない。下手をすると気が触れたのではと額に手をあてられるかもしれない。これは指に火傷をしたときに耳たぶを摘む条件反射とは意味が違う。

 大陸は広く何処までも地平線が広がっている。退屈なロングドライブをする時はこんなスリルを望むようになるかもしれない。アメリカは広い。

 
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