実話 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ(3): リハビリ

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     エッセイ(3)
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 私の大学時代の後輩で悪友であり弟のようなSという男がいる。私がいうのもなんであるが大変な変わり者で、来なくてもいいというのに時々アメリカに上陸してくる。面倒見がよく人間くさい、それでいて照れ屋なのか目立ちたがり屋なのか正体が分からない、政治の話になると別人に変身して立候補するかのように演説を始めるような、謎をも秘めたミステリーの人である。そんな理由で特に酒の席では他人を装うことが多い相手でもある。

 彼とはオートバイで知り合いすでに20年以上の付き合いになるから縁も深い。そんな彼から連絡をもらったのである。もともとオートバイ好きからレース関係に入り、私に追いつこうとしているのか額を広げ、クルーやらライダーの世話で顔を広げていたから現役選手からも慕われている。そんな経緯もあり、不幸にもレース中に転倒事故に合い脊髄損傷による下半身不髄になったライダーを気にして私を頼ってきたのである。

 私の住むデンバー首都圏には、脳損傷・脊髄損傷による障害のリハビリで有名なクレッグホスピタルがある。そこにリハビリのために入院されているというのである。突然の事故で下半身が動かなくなったショックは、それを経験したことのない私には想像する以上のことはできないが、かなり大きなものであろう。そんな彼と会って、励ましてくれないかというSの依頼を快く受けて私は病院の方に電話をいれた。

 入院中のH氏は奥さんと子供と一緒だった。Sからはすでに何らかの連絡が入っていたらしく、私からの連絡を彼は予期してくれていたので話は早かった。夏の暑い日である。じりじりと輝く太陽を浴びながら駐車場から病棟に向かった。ここの典型的な天候の日で、午後になってから雷雨を伴った雲がそろそろ到来する時刻であった。それは、私がちょうど病棟の入り口に入ったくらいに、その存在を力一杯表現するかのようにまず大粒の雨を降らせてきた。そしてその直後に雨粒がヒョウに変わり、地響きがするような雷があちこちで鳴り始めていた。

 受付には車椅子に乗った患者が看護婦と談笑している。うまく割り込んでH氏の部屋を呼び出してもらい私の到着を告げ、病室の確認をした。車椅子の患者のために手すりなどの設備が行き届いている。H氏とは初対面であったが、病室に入ると笑顔で迎えてくれた。

 元気そうな彼の姿をみて安心したが、やはり精神的な落ち込みは隠せず見ているだけでその辛さがひしひしと感じられるようであった。移動するときに自分の足を手で持ち上げて、少しずつ車椅子に近付き、人の手を借りずに体を移動してから、足を持ってくる。そんなプロセスをもって車椅子に載りこんだ彼と病室を後にして廊下を移動した。奥さんも子供さんも一緒についてきてくれた。

 アメリカのフロリダ辺りの病院では、特殊手術があって歩けるようになるかもしれないという期待をもらしながら、ここでは、回復の見込みがなく単に精神的な回復と車椅子による移動の技術を身につけるだけであるとなげきではないが、悲しげにたんたんと語る彼の顔をみているのが辛かった。

 しかし、彼のプラス思考には頭が下がるものがあり、これからの将来を楽しみにしている自分を話してくれた。日本ではまだ車椅子社会というものがしっかりしておらず、未だに障害を持っている人が悪いというような傾向がないこともない。そんな社会で力強くこれから復帰していこうという彼の意気込みに、頭を叩かれたような思いさえした。

 数ヶ月の入院、そしてリハビリの後にH氏は家族と共に帰国して行った。あれから数年。Sとは帰国の際に名古屋で飲んだ時にH氏のその後の状況を聞いた。すると、今では家にいることがないそうである。車椅子で毎日あちこちと出て回っていて、奥さんの方が彼のその勢いについていけないというくらいだそうである。

 生きる喜びというものを彼は私に教えてくれたような気がしている。

 

 
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