笑い話 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ(3): 御中

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     エッセイ(3)
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        ザリガニ
        小池君
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        突然の訪問者
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        御中
        精神治療医
        70マイルでチュッ
        テロ事件
        自殺
        リハビリ
        おとぼけ

 最近は日本のバブル崩壊の影響で海外に留学する学生の数が昔よりも減っているようである。実際の統計は分からないが、勉学に対する態度も変わり時代の変化と流れの中で皆それぞれの目標に向かって頑張っているようである。

 春が近づいて就職関係の大きなミーティングがサンフランシスコで開かれた。在米中の日本人学生達が就職先を捜そうと必死になって走り回っている。日本に里帰りをしながら会社訪問をしていた人たちも多い。不景気時の就職は、それ以外の時に比べれば戦国時代の生き残り戦のような緊迫感さえある。

 太陽の光が日に日に強くなって輝く春に入ったばかりの週末に、よくボーリングに行っていた学生の知人たちを招待してバーベキューパーティーなるものをやった。煙の臭いで暫く人が遠ざかっていっては、肉がいい具合に焼ける頃になると近づいてくる。私はバーベキューで料理をする事に生き甲斐を感じるほどになってしまっている。最近は薫製風に焼くことが面白くて、何を焼いても薫製モドキにしている。

 牛タンを焼き、レモン汁をかけて食べながら談笑していた。話題が風に流されるかのように動き始めていたときにMさんが就職の話をし始めた。彼らにとっては遅かれ早かれ直面するチャレンジである。
私は旅行業界にいることもあり、ある航空会社での面接の話を聞いていた。最近は、数年前のオウムのサリン事件の影響も頂点に達したのか、学歴だけで人を選ばない会社が増えているという。個性を強調してアプローチする学生も多いと聞いていた。

 面接官が5人ほど並ぶ長机を前にぽつんとおかれた椅子。面接室のドアをそーっと開けて面接官も会釈をしてある学生が入っていった。胸を張って前を見ながら、しっかりとした歩調で椅子に向かっていった彼は、急に足を止めて椅子の背後に立った。面接官達は、少し合間をおいて、「どうぞ。」と手を差しだし席を勧めた。緊張した面持ちながら強く意志を持った顔つきの彼は、管制塔からの指示を待ち望んでいたパイロットのように、「着陸します。」と大きな声を上げて椅子に座った。

 彼は冗談ではなく真面目にこのようなアプローチをしたのだが、運悪く面接担当者たちには理解してもらえなかったらしい。即座に対応された彼は驚いたが、「それでは、離陸してください。」と言われ、一言も話さずに仕方なく離陸した。
また、他の学生の話をきいたことがある。彼女は就職捜しの企業訪問の他に、手紙による挨拶や質問状を送っていた。とある大手の会社に訪問したくペンをとった。慣れた手つきでワープロのキーをパコパコと打ち、封筒に住所を書き込んだらしい。普段聞き慣れた言葉でも実際に使い慣れていないと大きな間違いをする。しかし、その本人は大体気がつかないことが多い。

 送り先の会社名の下には「Want You」と大きく書き込まれた文字が浮き上がるようにして目立っていた。英語の言葉を普通に聞く世代の人には「御中」がそんな風に聞こえたかも知れない。ひょっとすると心理的な欲望が、21世紀を担う彼女の頭脳から飛び出していたのかもしれなかった。

 
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