人生 エッセー 【小池清通】

 
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 エッセイ(4) 天職と金儲け

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 自分の持って生まれた、または与えてもらったギフト(才能や能力)を活かして社会のために役立てる職を持つことは素晴らしいことである。これを「天職」と呼ぶのだろう。天から授かったギフトを活かした職業という、そのままの解釈でいいであろう。そんな職業を持っていると思われる人は決して少なくないが、せっかく持っているギフトを間違った方向に使ったり大義名分だけ掲げて金儲けの出汁に使っている人は思っているよりも多いかもしれない。

 特に人の健康や命に関わる仕事をしている人には、この意識を伴った誇りと活躍の場を与えられた喜びを持つべき特権があると思うが、最近のニュースなどを聞いていると人の投資意欲を利用した証券取引法を無視した裏操作による成り上がりや、建造物安全基準法の耐震規定を無視することによって必要以上の営利を貪りレコードを出したり飛行機を所有する身の程知らずがいるらしい。それが組織的なものとなると、違った意味で性質が悪く偽装や偽証、そして事実隠滅や裏操作で、その会社を信じて商品を買ってくださる消費者の健康や安全などを全く無視した収益のみを考慮に入れた企業が顔を出してきている近年は、人類滅亡に拍車をかける「その日暮らし」の金持ち貧乏が目立つ。

 嘘は突き通せるものではない。事実が発覚した途端に態度を変えて怒鳴る奴もいれば、事体が悪化してどうしようもない状態になると慌てて眼鏡をかけて化粧をして音調まで変えてしっぽを丸めて尋問に望む奴もいる。それは同一人物であったが、見事な変化であるが羞恥心のなさは哀れであり、犯した罪は絶対に消えはしない。

 人の命や健康を助ける医者という職業がある。今話題になりつつあるのは日本では馴染みの深い東洋医学と海外から入ってきた西洋医学への視線の変化である。最近見直されてきている代替医療など、健康管理という感覚が環境破壊や現代病と呼ばれる訳の分らない症状が顕著になって注目を浴びるようになっている。そんな中で医療制度というシステムの矛盾が指摘される時代に来ていると思われる。ポイント制と呼ばれるシステムで、各開業医はそのポイントベースの収入を得る。お歳暮やお中元でもらえるサラダ油やお酒とは別の収入源である。

 アメリカが主要武器として行使している医学は「西洋医学」である。敵を攻撃し撃破するという、それが石油目当てであろうがなんであろうが、切り取り焼き去るという方法である。故に身体にメスを入れるし、化学薬品を投与して「敵」を駆逐しようとする。ことの次第が、人々の健康に関することになると医学というものはポイントを稼いで生活するために、藁をもつかむ思いで集まる患者への対応をそれに合わせて行うということは考えるべきではないと思う。一日何人診ないと儲けがでないなどという収益ベースの皮算用は、痛みに耐えながら頼ってくる患者にとっては怖い存在である。

 天職。医療関係の仕事を自分の役割として持っていたとしたらどれだけ誇り高きことだろう。人のやれない人助けの職を与えられるのである。そんなことを考えていたらある日本の歯医者の方のことを思った。彼は現在の保険制度ではしっかりした(当たり前の)治療をできないという理由で、国民保険制度をとらないで治療をしている。故に治療費は、ポイント制で一日で終わる治療を何回にも小分けすることによって医師が獲得するポイントが多くなる方法で何度も治療に足を運ばされる病院と比べれば、高く思えるかもしれない。私の場合は海外生活をしているから日本での医療には保険が効かないから関係なかったが、そんな彼の存在をふとしたところから聞きだした。

 中学の同級生が歯科技工士という仕事をしていた。彼に聞いて誰か「いい」歯科医師を紹介してもらおうと思ったのは昨年のことである。彼は、私が単に日本の方が治療費が米国より安いからという理由だけで聞いてきたのではないかと私の態度を善意で疑った。私は正直に彼に言った。「米国のそれに比べれば確かに安いかもしれないが、こっち(米国)の医者は信用ができんからな。」そんな私の言葉を聞いて紹介してくれたのがF医師であった。

 F歯科医の治療に対する態度は「天職」を得た人間がこれほど凄いものかと思えるほどのものであった。ポイント制で数(人数)をこなせば金儲けになる方法では、本当の治療ができないと確信し、難路を自分から選んでいたのである。一人の治療に半日または一日懸けることもあるという。歯の治療は単に開いた穴を埋めるだけではなく、日頃の食生活からくるものだという認識を強調し与え教えてくれる。歯並び、歯の痛み方やその理由、食事による歯への影響、歯の使い方による内臓への影響、食べものによる歯茎への影響などなどを詳しく熱心に語って下さる。日米で医者を見ているが、彼のような人は始めてであった。 また技術的なことも群を抜いておりクラウン(歯にかぶせる金や銀で作った人口歯カバー)は、電子顕微鏡で見ても永久歯にかぶせた時の隙間に寸分の狂いがないほどである。これでは虫歯が再びステージに上がろうとしても、上がるスペースがない。

 いい土地の投資があるから、などと話が出るとすぐに飛びつく医師を見たことがある。病気の末期になってやたらと薬剤を投与して手遅れとなり、後から遺族に「もう少し早く気がつかれたら、助かったのですが」と挨拶する医者がいる。かと思えば、遠隔地の気候の厳しい過疎地に身を投じ村民のための村医者として障害を送る方もいる。 人は生きるために稼ぎが要る。しかし、自分に必要な稼ぎとは単に数字で表示され、それによって得られるものだけで判断するものでいいのだろうか。

 天職。一体何なのだろう。単なる自己満足なのだろうか。もしそれが自己満足だとしたら、やはり何か人のためにしたという誇りが欲しくはないだろうか。人がいずれこの世を去る時に一人でも多くの人に涙を出して悲しんでもらえる人間になりたくはないだろうか。物事が何においても物理的なものだけで評価される尺度の質と形が変わってきている時代においてこそ、改めて本物は何なのかと考えるべきではないだろうか。本物が食べていけない時代かもしれない。だが、だからこそ「本物」は天職というものを与えられた栄誉を感じ、誇り高く前向きに進めるだけの度胸と決意を持ってもらいたい。

 
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