自然 環境 【小池清通】

 
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 エッセイ: しるし

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 いつものように初夏になると山に心が動く。2002年は前年からの雪・雨不足で干ばつを恐れられながらスタートしていた。といってもここ3,4年は干ばつ気候の年であり、早くこのサイクルから抜け出さないと農作物や酪農などに大きな商業的ダメージが及ぶといわれているようだが、自然は人間の都合など考えてはいない。初夏に入る頃になるとアメリカ中西部・西部の各地で自然発火や違法火気使用による放火による山火事が後を絶たない。発火理由はどうあれ、自然はエコシステムを潤滑に回すために火が出れば容赦なく山肌を焼き尽くす。人家があろうとなかろうと、風に任せて焼き尽くす。

 初夏とはいえ炎天下が続き、夕方に来るはずの雷雨もない日が続いている。水の制限も出された市や地域もでてきている。それでも自分の家の芝生をきれいに保ちたいと必死に水撒きをする家も、表面張力で必死に浮き上がっている一円玉のように横からみると面白い格好をしている。真っ青なコロラドの空を見上げながら、山の積雪や雨量はどうだろうと気にしながら、ある週末にダイアモンドレイクへのトレールを上った。デンバー地域(標高約1600メートル)とは違い、まだ若葉が目に付く。この標高では、これからが初夏であるが早咲きの野草たちはすでに花を力一杯広げて太陽を受けて輝いていた。

 ふと目の角に、ひらひらとトレールの脇に林立するアスペンの葉が風に揺れた。アスペンは、標高3000メートル付近だと6月初旬ではまだ若葉が出始めている頃であった。秋になると金色に輝き目に突き刺さるような黄葉を楽しませてくれるのだが、今は薄緑色の弱々しい若葉を枝一杯に広げようとしている。大きな岩の脇に力強く一本のアスペンが、岩を二つに割るようにしてどーんとその陰を横たえていた。不思議なエネルギーを感じる木であった。

 よく見てみるとその幹に幾つもの落書きが刻み込まれていた。さぞ痛かっただろう。しかし、木は痛みを人間に分かる手段で表現できない。それでも、無残に切りこまれた文字が表皮の色を変え、その白っぽい幹にくっきりと見える。

 美しいロッキーの山々の中にそんな「しるし」をつけられたアスペンが立っている。 私は知らないうちに手をその幹にあてて話しかけていた。



 
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