自然 環境 【小池清通】

 
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 エッセイ: アライグマ2

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 あのとんでもない、いやそんなことを言ってはいけないが、無断居住者がいなくなってから我が家は静かになっていた。時々屋根の上を走り回るリスの足音が聞こえるくらいの平和感があった。アライグマのあけた穴はしっかりと金網でふさいで釘を打ちつけていたから安心していた(と思っていた)のは確かである。

 裏庭に表から行くときには、アライグマがあけた穴のあたりをチェックして通る癖が、洗ってもとれないへばりついた松脂のように、私の頭を持ち上げさせた。習慣と呼ばれる類の動作が自動的に作動し始めた。逆光の状態で軒が見えないから左手で額の辺りをカバーして見上げた。金網はしっかりとついていて、いつものまま。いや、あの日は何かおかしい気がしたのである。もう一度よ〜くみてみると、金網の中にぬいぐるみのような毛皮が見えたのである。それも一つではなく少なくとも3つも。右端からは可愛いアライグマの顔が見えこちらを見下ろしている。真中はお尻。左端はべとっと腹ばいに寝ている大きなお腹であった。

 一瞬どころかしばらく目を疑っていたが、現実に戻りどうやって入ったのだろうと観察してみた。すると釘をとめた反対側の壁のところからわずかなスペースが開く程度持ち上げて体をひねり込んだようなのであった。感心なものだとうなっていても仕方なかったが、なすすべもない。思案にくれた。また大声の捕獲親父を呼ぶことになるのだろうか。彼の笑い声はどうもご近所から苦情が来るような野獣のそれに似ていたから、正直なところ呼びたいとは思っていなかった。

 大人のアライグマは一緒に住まないと聞いていたから、三匹いたとすると若い子供たちなのか。そんな思いをもちながら週末が近づいてきた。久しぶりに家族で山に上ろうと息子たちの尻を叩いて早起きをしなければならなかった。まだ外の薄暗い時刻に起きて、出発の仕度をしていると「アライグマだ〜」と台所から声が立ちあがったのである。

 慌てて台所に飛び込んで外をみると、なんと母親に連れられて朝帰りの子供4匹。合計5匹のアライグマ一家のご帰宅に直面したのである。腹の部分が皆濡れていたから裏の池で夜の捕獲訓練でもしていたのだろう。

 これはしめた、と私は思って息子にすぐに外にでて屋根裏に入らないように見ているように指示した。私は(後から大笑いであったが)何の躊躇もなく、無意識にデジカメとビデオを持って彼に続いていた。

 母親が吠えるように威嚇音を出すが、自分だけ家の角まであっという間に逃げて行ってこちらを覗いている。子供たちはどうしていいのか分からず、ふらふらと千鳥足の酔っ払いが歩くようにフェンスの上をうろついている。そのうちの3匹は機敏にまとまって逃げる体勢をとってこちらの様子を見ている。4匹目の子供は?いない?

 なんとフェンスと塀の間に落ちてぬいぐるみのように、しかし照れくさそうにじっとしてこちらを見ているのである。なんとも可愛い光景であるが、母親がうなりながら裏のフェンスに向かって旋回してきた。3匹の子供たちはその姿を見つけて、急いで隣の家のフェンスの方に逃げ始めた。4匹目の子供はまだフェンスの間に落ちたまま。何か一言。とマイクでも渡したい心境である。

 それでも、よっこらよっこらフェンスを登って他の子供たちの方に動き始めた。一度下に落ちては登り、最終的に親子再会の時を迎え、隣の家の裏庭のベランダの下へと姿を消して行った。

 息子と私は急いで脚立を持ってきて金網のとまってなかった箇所の修復を急いだ。結局思わぬハプニングのお陰で1時間ほど予定より遅れて山へと向かったのである。それにしても早起きをしていなかったら、今でも屋根裏でごそごそとやっていたのだろう。早起きは三文の得とはよくいったものである。

 
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