自然保護 【小池清通】

 
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 エッセイ: 自然保護と現実                         4.2006

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  とある折に、ある「青少年の森」を訪れた。元学校校長をされていたA氏が施設などの話をしてくださった。そこは動植物の数や環境に恵まれ、古来から豊かな森であったところに作られた、青少年や一般の方々に自然を楽しんでもらうための施設だという。県の予算を使って建設運営されているのである。

 自然環境やその保護という言葉は最近頻繁に聞くようになっている。それ故に保護という観念もかなりの位置にあると私は考えていた。建造物の裏側の大窓から見えた景色は、反対側の山々が見えるばかりか海までも見えるという凄いものであった。

 この職についてからかなりの手腕を振るって施設の「改善」をしてきたと自負する彼は言った。 「以前はここからは雑木林ばかりで何も見えなくてねえ。だからいくらか切り倒して見通しを良くしてね、家族などでピクニックできるように下草も取り除いて安全にしたんです。ほら、ベンチやテーブルもつけてあるでしょう。」

 私は森の自然保護を主題としているのではなく、利用者の人気を集めたり便宜をはかるためという人間本意の理由で手を加えて、この眺望を作り出したものであると理解して、言葉がでなかった。

 更に付け加えるようにして、こんな話まででてきた。ちょうど建物の裏側を回ったところでのことである。彼は得意げに話し出した。「昨年は蝮が沢山出ましてねえ。始末するのが大変でしたよ。」蛇がいるなら他の動物もいるのだろうと感じた私は、即座に聞き返した。「それでは、今年は鼠などが増えたりしなかったですか?」

 さすが元校長先生である。私の真意を感じ取ったのか、むっとしたように目の色を曇らせながら、しかしながら、前置きの説明や経緯などの話もなく、彼は言い返してきた。「子どもが噛まれたら大変ですからねえ。だから蝮がいてもすぐ分るように下草もご覧のように綺麗に取り除いたんです。」おっと、こんなことを言い出したら、まるで焼け石に火炎放射器である。

 彼の指差す方を見てみると、確かに樹木の根元の辺りが綺麗に掃除されたというよりも生えている草や茂みが全て抜き取り除かれたかのように見えた。豪雨などに見舞われたら表面の土は確実に流されるだろう。

 山の斜面に生えている樹木は根を張ることによって土壌の崩れや浸食を防いでいる。下草と呼ばれる植物たちは土の表面近くの浅いレベルではあるが根を張ることによって、土壌表面の風化を防ぐ。落ち葉はこの下草の間に落ちて蓄積しバクテリアたちが砕いて腐らせ土を豊かにしていく。この繰り返しが豊かな森を作り出し、多くの虫や動物たちもその「エコシステム」の中で共存するのである。

 山を削れば水の流が変わり、風の流が変わる。自然による変形であろうと人為的な傷であろうとそのような変化に対し自然はバランスをとり始める。それまでの環境下のエコシステムが崩されると動植物に変化がでてくる。蝮が増えたのも何か原因があったに違いないが、自然を教えようと作られた施設の敷地内に蝮がでたら、これは自然を学ぶいい機会であろう。事故を恐れて「害」と思われるものを取り除いてしまう方が、「害」を直に学び、その恐ろしさとその存在を知ることによって気を引き締め、被害にあった時の対応策を学ぶのが従来の古人たちが自然と協調しながらやってきた生活観念であり、それが自然環境を守る方法であったはずである。

 自然保護。この言葉を人間中心に考えている限り奇麗事をいいながら環境を破壊していく行為は止まらないであろう。微妙なバランスで共存をする自然の妙技を人間が真似て継続的に維持することは不可能である。


 

 
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