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牛を主食にしているかと思われるような肉食国家、アメリカのさわりのような話を「食用肉牛たち」で書いた。ここではまた少しアングルを変えて、その食材となっている牛について話したい。内容的には牛そのものというよりも食材となる動物の飼育に関することといってもいい。
大量の肉牛が飼育され消費されている話はもうご存知の通りであるし、その食材としての牛の飼育に成長ホルモン、抗生物質などの人為的な薬品が使われていることも私のHPのどこかしらで話しているはずである。そんなアメリカの食肉業界の中で約20年前に私財をなげうって、先祖代々受け継がれてきた牧場の飼育方式を一新させた人がいる。彼はメル・コールマン(写真右から3人目)といった。当時は業界の同業者から相手にされなかったという。パッキングプラントも人手に渡してまでして資金をつくり牧場を完全オーガニックシステムとしたのである。
コロラド州サワッチが彼らの牧場のあるところ。小さな町である。東側をサングレ・デ・クリスト山脈が流れるようにして聳える。夕方には「キリストの血」といわれる所以であるほどに真っ赤に山が燃え上がる。そんな地でコールマン牧場が苦難の80年代を乗り越え、90年代を経て2000年代に入ってきた。
アメリカのオーガニック認定の基準は徐々に進歩をしてはいるがまだまだ州によってまちまちで連邦政府による全国基準がまだしっかりしていない。野菜に関してはかなり統一され、「オーガニック」のレベルを貼って一般スーパーにも出まわるようになっている。しかしながら肉となると、その家畜が何を食べたのか分かり難く、また飲む水も分からない。
オーガニック牛は、生産性という点で言えば能率が悪く、それゆえにコストが高くなる。しかも育った肉牛が、薬剤を使っている牛(コンベンショナルという)と比べると一回りほど小さい。与える餌はもちろん有機栽培の干し草などだけに限られるから割高になるし、肥育期間が自然のスピードだから、不自然なホルモン剤を注入された牛よりも遅い。故に出荷までの肥育期間が長くなるというものである。
仕事上牛の解体工場は何度も見ているが、枝肉として吊るされてきたオーガニック牛を見た時に私はとても驚いた。まず一目で見て、コンベンショナルな肉牛のそれよりも小ぶりであること。そして何よりも余分な脂肪分が少ないということである。体重があっても脂肪ばかりでは仕方がない。もう一つ付け加えるならば、(赤い)肉の部分の色が違うのである。自然に育った牛だからだろうが、店頭に並んでいたりレストランで赤みで出てくるものよりも茶色っぽく見えたのである。
そして何よりも味が違う。まず固めに感じられる肉。これはテンダライザーという人為的な肉を柔らかくする薬を与えていないからである。だから自然の歯ごたえ、とでもいうのであろうか。それを噛んでいると徐々に味がでてくるのである。私はステーキには香辛料の類は全くかけないから肉そのものの味が分かる。明らかに「自然の肉の味」なのである。
大変悲しいことではあるが、アメリカの大量生産のシステムの一つになってしまっている肉牛生産の業界の中で数よりも質を重んじ、何よりも消費者の健康を考えて私財を投げ打って現在のコールマン牛を生み出したメル・コールマンは2002年2月に天に召された。しかし彼の遺志を継いだ息子のメル・コールマンJrが牧場の経営に励んでいる。
アメリカにもこのような素晴らしい人、そして家族がいることが私を未だにアメリカに留めている理由なのである。21世紀の「アメリカンドリーム」は金儲けではなく、将来の子供たちにどれだけの自然を残して上げられるかということではないかと私は思った。
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