健康食品 【小池清通】

 
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 エッセイ: ある野菜卸業者

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 2001年の話であるが3年契約という口約束で、ある日本の野菜卸業者、D社のアメリカでの情報収集業務や同社の顧客接待・視察補助の仕事を請け負ったことがある。D社T営業部長という方は大変活発な方で、アイデアマンではあるが勢いと張ったりだけという懸念がなかったわけではないが、勉強になるし興味を持っている自然、環境保護、食材の安全性、自給率、健康管理などに関係しているものと思って引きうけた仕事であった。だから、私のビジネスに支障が出るわけでもなかったこともあり、「口約束」の契約で私には十分であった。

 実際のところ何故私に声をかけてきていたかは分かっていた。いや、実はすがってきたといった方が的確だったかもしれない。D社は野菜の卸業者として日本でも有数の会社だと自負しておられたが、経緯としては、それ以前から米国の有機農業および自然飼育の肉牛などに死力を尽くしているE社があり、そこの現地担当者としてKさんという日本人がマネージャーをしていた。折りからの日本のバブル崩壊+不景気の影響から、オフィスを一時休ませて様子を見ていたところにT氏が何の承諾もなくKさんにアプローチして、D社の仕事を押し付けたらしい。E社としては同じ食材を扱う会社としてKさんを引っ張ったことはともかく、一言くらい声をかけるのが礼儀だと思っていたが、食材の将来性を重視するE社社長は何も小言を言わずにだまっていた。

 そのKさんがT氏から押しつけられた仕事としてD社の顧客を連れた視察旅行でコロラドを訪問した時に私がガイドとして添乗したのである。それは、2000年のことであった。Kさんは通訳として補助をしていたのだが、訪問先であるG農場、C社などに私は以前通訳として何度も足を運んでいたので、彼女の立場を考慮していながらもお客さんのためにと補助的にフォローしながら仕事をしたのである。ところが、その年の暮れにKさんが突然D社の仕事を断ることになったのである。ご主人が仕事で東京に転勤になるというのであった。

 アメリカにおける有機農場関係で大風呂敷を引いて日本の顧客業者に吹聴をしていたT氏は、現地にオフィスがあることに関し過大広告を打っていた手前、Kさんが突然いなくなるということで途方に暮れていたのである。それを、私は知っていた。D社が株式上場準備を考えていた時期だからかもしれない。T氏が株を持っているO社の社長をうまく持ち上げるべくアメリカでの視察内容を飾り過ぎていたからかもしれない。実際のところはD社社長ではなく、T氏だけが知るところであろう。

 T氏が営業を総て牛耳り自らが海外出張に必要以上にでていたのであるが、D社の主要輸入元は中国であった。中国の人口は多く、日本と比較出来ないほどに国土は広く人件費は安い。D社は、そんな中国で作られた野菜を大量に輸入し日本の市場に売りさばくことによって売上を拡張してきた成長会社だったのである。

 そして時代の流れとしてオーストラリア、ニュージーランド、北米、中米などのオーガニック野菜にも手をつけ始めようとしていた時期であり、キット商品と名づけた商戦商品の開発時期であった。顧客も有機野菜に対する消費者からの関心に敏感に対応すべくD社に打診を何度もしており、それに対応してT氏がアメリカでの「受け」の体制を急遽迫られていたのである。

 しかし、私がここで言いたいことはアメリカでの有機栽培・飼育に関してではなく、D社の仕事をさせて戴いた間に知った恐るべき食材に対するこの大手野菜卸業者の実権所有者であるT氏の言動なのである。会社というものは株式上場したり、規模が大きくなると商品を単なる「もの」としてしか考えず、その「もの」が如何に多く売れ、如何に多額の収益が上がるかという点のみに視野が寄せられる傾向にあるのかもしれない。そして、その活動の主軸にあたる営業部長なり実質上の経営者の視野、先入観、責任感、などが、扱われる「もの」の実質的なものを左右することが多い。T氏が、話をよく聞く私に対し腹を開いて、事実をぽろ、ぽろっとこぼしたのである。

 この仕事を通してD社が取り扱っている中国の野菜。その恐ろしい実態をも知ったのである。それは、農薬そして化学肥料という人工的なものが「未開」的ところが多く、巨大スケールの国で大量に使われていながらも、それらに関する情報を十分に小売商や消費者に提供せずに、ただ量を売って収益を上げてきていたことである。または虚実の情報を流していたのである。

 日本ではすでに禁止されていたり、アメリカなどでも人体に影響があるという理由で使用を止められている農薬や肥料などがある。しかしながら、中国では、それらに対する規制や対策がまだまだ遅れているという。その遅れを、なんとか世界的な基準に合わせるべく努力をしながら、商品としての食材を輸入し日本の野菜卸業者のリーダーとして成長する方向に向かっていてくれればどれほど素晴らしく嬉しいことか計り知れないだろう。しかしながら、T氏の言った言葉はそうではなかったのである。

 利益がでなくてもいいから勉強だと思ってやってくれというD社社長の度重なるお言葉とは裏肌に、その3年契約の仕事は、何の説明や協議もなく1年に縮められ、最終的には9ヶ月になった。尻切れとんぼのような状態でT氏のコミュニケーションが突然途絶え、逃げ去るようにして消えていったのはちょうど同時多発テロ事件が起こった2001年9月のことである。私は、そんな動きに対して何とも思わなかった。

 ちょうど日本で偽造、産地偽り表示などで大手企業がニュースの一面を賑わせ始めた時期に近い。

 
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