不思議 【小池清通】

 
写真家【小池清通】
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 エッセイ: 落下事件

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     不思議な体験(1)
       
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        落下事件
        落雷
        口に出すこと
        天罰

 

 親しい人間が聞いたら、恐らく何のためらいもなく噴出して笑い出すだろうが、私にとっては初めての経験であった。何のことはない。椅子から落ちたのである。いや、落ちたというよりも「落下」したと言った方がいいのかもしれない。

 帰国中のことであった。岐阜県多治見市にあるお勧めの蕎麦屋に行った時のことである。いつもの調子で飲み食いをして、皆で楽しませて戴いていたのだが、どうもいつもと様子が違っていた。それは、周りの様子ではなく私自身の様子が、であった。

 どう違ったのかというと、うまく言えないが、いつもの酒の回り方と全く違った体感があった。そして、驚異的な眠気が私を襲ってきたのである。人間いくつになっても「初めての体験」をする可能性はあるのであろうが、体育系であったことと、若気の至りで馬鹿飲み食いをしていたことのある私には自分の「限界」はわきまえていた。そんな私が経験したことのない異常な「酔い」と「眠気」が頭の上から足のつま先までの走り回っていた。

 実は思い当たることはあった。その日は整体と強化マッサージをしてもらっていたのである。整体はともかく、私のやってもらっているマッサージというのは、「普通の人なら声を出すか、逃げ出す」というものらしい。私としてはもう20キロくらい増量して乗ってもらいたいのだが、若干70キロ級のプロが私の体のあちこちに巣作っている親分や子分たちを退治してくれる。実際には退治できずやってもらう度に、ほぐしてもらうのが限界なのだが、私の体が横たわると「これは何をしても壊れない」と核心をもってくださるようで容赦なく押して下さるのである。

 その夜に飲み食いしていたのである。眠気は異常なほどで、私は意識もうろうとなっていた。体がふわっと、そしてぽかぼかっとしていた。極楽気分というものなのだろうか。しかし、ふと目をつぶったと思った瞬間に時間が飛んだらしい。目を開けるとテーブルの足が私の目の前に横になっていたのである。いや違う、私が横になっていたのであった。

 家族や店の人が私を覗き込んでいた。私はすばやく置きあがりまた椅子に座ったが、椅子から左側にそのままの姿勢で「落下」したのであった。ただ、未だに不思議なのは、真横に落ちているのであるが、私の特大の頭を床に打っていないのである。そして、左肩を直撃して90キロ近くある全体重がそのまま床に吸いこまれるようにぶつかっていたはずであるが、打ち身やあざもなく、まるで何もなかったその直後そしてその後だったのである。

 整体やマッサージの後は新陳代謝が異常によくなるという実証なのだろうが、どう落ちても怪我くらいする落ち方だったのに無傷で痛みさえなかったのが未だに不思議で仕方がならない。

 
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