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ここ数年の慌しい世界の動きの中で、ちっぽけな一個人ではあるが、私の周りでも有難い流れがあちこちから姿を現してくれている。親しい仲間のご好意で紹介頂いた方が、夢多きプロジェクトの流れを持ってコロラドに来て下さった。同行されていたのは、田渕隆三画伯とお弟子さんたち。この画家の絵は心を引き込む魅力があり、絵の専門家ではない私でさえも彼の画風に魅せられ動けなくなるものがある。去る7月に帰国した時に、思わぬご厚意ある思いつきでスケジュールが急変し、そのお蔭で一度お会いする機会を得てはいたが、実際に作業をされる姿を見せて頂くのは始めてであった。5日間ほどの貴重な時間を通して、画家の感性からみた自然美や景観というものを感じることができた。写真家として活動をしている私にとっては、絵と写真の表現方法の違いを知るだけではなく、写真では撮影出来ない造形物、被写体の露光差というものを描ける絵の素晴らしさと、作品に吹き込む対象物への思い、そして絵画というものが求めるオブジェクトとそこに吹き込む気というものを深く学ばせて頂いた。
とても印象に残った言葉がある。それは、「絵は美しくなければいけない、技術もなければいけないし、そして力強いさも必要です。」「しかしながら、見る人に希望を与えられる力がなければ意味がありません。」ということである。写真撮影を続け作品作りをする際に私が被写体である大自然に感じることは、先生がおっしゃった言葉を言い換えれば、私の信条である「自分の気を被写体の気とつなげることによって作品に吹き込むものを」撮らせてもらうことである。それは自然体というものを会得し、被写体と波動を合わせることである。邪気を払い、撮らせてもらうという気持ちを私が大切にしている理由がそこにある。「希望を与えられる力」というものは、写真における被写体との同調であり、またつながりによって与えられるものではないかと感じた。
自然は常に我々に素晴らしいメッセージを発しているが、それに気づくかどうか、気づこうとしているかどうか。また気づいて行動に移すかどうかという簡単そうで難しい「基本」を改めて認識させられた思いが強い。
(2011年8月)
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(在米写真家: 小池キヨミチ - アメリカ合衆国コロラド州ロッキーマウンテンをベースに活動する写真作家) |