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心でみること
2007年春に東京と名古屋のフジフォトサロンで写真展を開かせて頂いた時に、多くのことを感じさせられた。そのなかでも、何人かの女性ご高覧者からのコメントには有難く感動するものがあった。土地柄による文化の違いが感じられた東京と名古屋の男性のコメントの多くとは違い、女性のそれは共通したものだったことが強いインパクトとして私の経験の中に刻み込まれている。
東京展示会では35点、名古屋展示会では42点の作品を発表することが出来た。展示数の違いは各展示会場のレイアウトと展示面積によるものである。テーマが砂丘ということもあり、限られた情報を元に強い先入観をもって来られた方も多くいた。
撮影地であるグレイト・サンド・デューンズ国立公園はコロラド州のロッキー山脈の中に広く横たわるサン・ルイス・バレーという巨大な盆地の東側サングレ・デ・クリスト山脈の麓に存在している。北米大陸の内陸部にあるこの砂漠地帯に海はない。ところが、砂丘の近くには必ず海があるものだと思っていたり、4,000bを越える山々が隣接するように存在することが「異常な」景観に思えたらしく、多くが言葉を失っていた。そして砂漠は暑いところだという固定観念があるらしく、氷点下が襲うことや雪が降り積もること、標高2500メートルに砂丘が存在することを信じられない人も少なくなかった。砂漠は暑いところだという考えや、生き物がいないと思っている方もおり、すべてがモノクロの世界であると思い込み、またそこに息づく動植物の命の泉さえ最初から拒否しているかのように思える人さえいた。
私にとって光栄であり、またこのうえなく嬉しかったことの一つは、心で作品をみて下さった方が多かったことである。中でも涙してコメントして下さった方が数人おられたことは一生の宝になる出来事だった。このような写真展は私にとって初めてのことだったから、何もかにも発見だったが、この宝は「感性」というものの大切さを意味するものとして今後の撮影活動の励みにもなっている。
撮影地を知らない方がほとんどだったが砂丘の大きさを物理的なサイズではなく異次元のそれに近い感覚で感じられた方、砂の舞う音を感じられた方、画格の外まで感じることが出来た方、色の変化に何かを感じた方、生態系を感じた方、大地そのもののエネルギーを感じた方、などがいた。作品を通して、それぞれの感性に響き渡る何かを素直に感じて下さった方々が、心で作品をみることの大切さと、それによって各々が得るものの力を認識するに至っている。
(2007年9月)
在米日本人写真家: 小池清通 - アメリカ合衆国コロラド州をベースに写真作家活動
砂漠写真、砂丘写真を主体に大自然とのまじわり、つながりを写真を通して紹介
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